石鹸を使う手洗いが、新型コロナウイルスからの感染を防ぐ方法の一つとして推奨されています。
でも、石鹸のウイルス破壊については分かっていない部分がありました。
北九州市立大学、広島大学大学院、シャボン玉石鹸の研究者チームは、ウイルス不活性化の解明に取り組んできました、2019年に大きな研究結果を発表しました。

インフルエンザウイルスを使った実験では、自然素材無添加石鹸の界面活性剤のウイルス破壊能力は、合成系界面活性剤と比べ100~1000倍も大きい事が分かったのです。

 

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界面活性剤が効く理由

皆さんは毎日石鹸を使っていますか?
では、石鹸のメカニズムはご存じでしょうか?

石鹸や洗剤の主成分は界面活性剤です。
界面活性剤は、水だけでは落ちない油汚れを除去してくれます。

インフルエンザウイルスもコロナウイルスも、表面は脂質二重膜で覆われています。
1ミリの1万分の1という、脂質で覆われたとても小さい玉なのです。
界面活性剤はこの玉を覆う脂質を引きはがします。
その結果ウイルスは死滅します。

英語の動画「Fighting Coronavirus with Soap」(日本語字幕:石鹸でコロナウイルスと戦う)をご覧ください。
アメリカの蛋白質構造データバンクが製作したものです。

この動画では、界面活性剤の分子がウイルスの脂質二重膜周囲に集まって高分子の集合体を作り、脂質を引き剥がす様子が描かれています。
石鹸が脂質を引き剥がす作用を、ウイルスの脂質層に当てはめたものですね。

棘を抜く

広島大学院医系科学研究科教授の坂口剛正さん、北九州市立大学国際環境工学部教授の秋葉勇さん、そしてシャボン玉石けん研究開発部長の川原貴佳さんを中心とするチームは、
自然素材無添加石けんの界面活性剤の抗ウイルス作用が、合成系ハンドソープの界面活性剤と比べ100〜1000倍も大きいことを明らかにしました。
広島大学の坂口剛正さんは、ウイルスの外殻は脂質二重膜なので、当然、石けんで溶けます。
電子顕微鏡で見ると、濃度が高い合成系界面活性剤ではウイルスはもとの形がわからないほどバラバラになっていました。
一方、自然素材無添加石けんの界面活性剤は、濃度が低くてもウイルスに穴をあけ、ウイルスの棘の部分、スパイクタンパクにとりつき、スパイクを引き抜いていることがうかがた、
と述べています。

合成系ハンドソープもインフルエンザウイルスを壊すことに変わりはありませんが、自然系のほうが、壊し方がダントツに大きいのです。

ノーベル賞にノミネートされた研究

共同研究者である北九州市立大学の秋葉勇さんとシャボン玉石けんの川原貴佳さんが、その壊し方の違いの解明に取り組んでくれました。

秋葉さんは高分子材料化学、界面活性剤に取り組んできた研究者です。
彼の恩師は、北九州市立大学副学長でもあった國武豊喜さんです。
國武豊喜さんについてはこちらの動画をご覧ください。

國武さんはその業績により毎年ノーベル賞候補として名があがっています。

北九州市にはシャボン玉石けんがあり、界面活性剤の科学では世界のトップ水準を誇っています。

それでは、チームは界面活性剤とウイルスの相互作用をどう解きほぐしたのでしょうか?

秋葉さん達の結論は、自然素材無添加石けんの界面活性剤、「オレイン酸カリウム(C18:1)」は、ウイルスと「静電的相互作用」しているという事でした。
インフルエンザウイルスは、表面に突き出ている棘(スパイク)が肺胞細胞や気管支の正常細胞に取りついて侵入します。
そのスパイクは、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という2種のプラスの電荷を持ったタンパクで構成されています。
一方、オレイン酸カリウム(C18:1)はマイナスの電荷を持っています。
そのため、そのマイナスがウイルスのHAのプラスに引き寄せられ取りついているのでは、と考えたのです。

洗濯と同じ原理

界面活性剤の細長い分子は、頭の部分が「親水基」で水になじみやすく、長い尾の部分が「疎水基」で油に引き寄せられます。

脂のついた布を水に浸し界面活性剤を加えると、たくさんの界面活性剤の分子は、尾の「疎水基」部分が吸い付けられるように汚れである脂を取り囲み分子の塊を作ります。
界面活性剤の分子の頭は「親水基」なので、脂をはじいて水に引き寄せられます。
こうして脂を取り囲んだ分子の塊は、布から引き剥がされて水の中へと拡散し、油汚れが落ちるのです。

ウイルスの表面でも洗濯と同じことが起こっています。
先の動画、「Fighting Coronavirus with Soap」(石鹸でコロナウイルスと戦う)は、その説明でした。

広島大学と北九州市の研究チームは、ウイルスに対しては洗濯とは異なる反応も起こっていることを見つけました。
界面活性剤が、ウイルスの細胞攻撃の武器であるスパイク)を構成するHAとNAという2種のタンパクをどう攻撃するのかを探りました。

界面活性剤の「親水基」は電気的な相互作用を起こすと「発熱」します。
一方「疎水基」は脂と反応すると「吸熱」します。
頭が働くと熱くなり、尾が働けば冷える訳です。

ウイルスに界面活性剤を加えて温度を測定し「発熱」していれば「親水基」が働いています。
「吸熱」していれば「疎水基」が働いている事が分かります。
きわめて微小な熱なのですが、等温滴定型熱量測定器(ITC)で測定する事ができます。
その測定結果は驚くべきものでした。
界面活性剤のウイルス不活性化メカニズムの新発見だったのです。

凄まじい攻撃力

秋葉さんと共同研究したシャボン玉石けんの川原貴佳さんは、
自然素材無添加石けんに含まれる界面活性剤が、「親水基と疎水基」の原理でウイルスのエンベロープを壊すだけでなく、まったく別の凄まじい攻撃力でウイルスの武器を引き抜くのだという研究成果には勇気づけられた、
と語っています。
この研究は新型コロナウイルスではなくインフルエンザウイルスに関する研究ですが、新型コロナウイルスでも同じかどうかの確認研究は急がねばなりませんが、坂口先生もおっしゃっているように、新型コロナウイルスでも同じ効果が期待できると考えられています。

 

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手荒れの心配は?

新型コロナウイルスの感染を防ぐためには頻繁な手洗いが必須ですが、とりわけ医療従事者はその回数が多くなっています。

界面活性剤で洗う回数が増えれば手荒れが心配ですね。
手荒れは界面活性剤がもつ「細胞傷害性」によって起こります。
界面活性剤は脂にとりつき剥ぎ取る機能が大きいが、手洗いでは皮膚の表面にある脂肪も取り去ってしまいます。
頻繁に手洗いを続けると、皮膚がガサガサになる手荒れが起こってしまいます。
医療従事者にとって、これは大きな悩みになってしまいます。
では、医療現場ではどれくらいの頻度で手洗いをし、どれくらいの手荒れが出ているのだろう。

2017年に、手荒れについての調査研究が行われました。
北九州市の小倉記念病院感染管理部、NPO法人・北九州地域感染制御チーム、産業医科大学病院感染症制御部、シャボン玉石けん、そしてシャボン玉石けん感染症対策研究センターが行ったものです。
その成果は感染症の医学誌『INFECTION CONTROL』(2017 Vol.26 の12)に、『無添加脂肪酸カリウムを用いた手荒いせっけんの手荒れ予防に関する調査研究』として投稿されました。

調査対象者は、急性期病院の110名、療養型病院の197名、高齢者施設の125名でした。
この調査研究は、擦式アルコール製剤の使用、流水と石けんによる頻回の手洗いが手荒れの原因で、また手荒れが感染の温床にもなるという前提のもと、「石けんの工夫が重要だ」として実施されました。
調査でわかった手洗い回数は、おおむね11〜20回が4割、31回以上手洗いを行っている人も13〜14%ありました。
そのうち7割の人が「とても手荒れしている」「やや手荒れしている」と回答していました。
合成系のハンドソープの代わりに自然素材無添加石けん(手洗いせっけんバブルガード)を使い始めた所、手荒れは半分に減少しました。
「自然素材無添加石けん」は合成系ハンドソープより肌に優しいのですね。

5000年目の大発見

手洗い石けんへの需要が増え、自然素材無添加石けん「手洗いせっけんバブルガード」は品薄になっているようです。
今後の供給見通しはどうなのでしょうか?
シャボン玉石けんの川原貴佳さんによると、
樹脂製ボトルと泡を出すためのポンプの製造工場に注文が殺到し、入荷が遅れていることが品薄の原因という事でした。
川原さんは、シャボン玉石けんの製品にはすべて「手洗いせっけんバブルガード」と同じオレイン酸カリウムや類似成分のオレイン酸ナトリウムが含まれているという事です。
無添加ボディソープ、ベビーソープ、浴用石けん、ビューティーソープなどを手洗いに使っても「バブルガード」と近い効果が得られるそうです。

ちなみに、自然素材(天然油脂)のみを原料とし、合成系の添加物を加えていない昔ながらの石けんを製造してきたメーカーは少なくありません。
今回の研究成果は、それらのメーカーにとっても朗報ですね。

人類が石けんを使いはじめて5000年になるそうですが、
5000年目にして思いがけないウイルス攻撃能力が明らかとなりました。
その研究成果が出た翌年に、人類は新型コロナウイルスの猛攻を受けることになったのです。
まるでこの非常事態を予感し、凶暴なウイルスを攻撃する手の内の一つを得たのかと思わせる研究成果でしたね。

 

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